青年海外協力隊

「現地を愛せない…」JICA海外協力隊員の悩み。人類学者はどうしていたのか?

最近、他のJICA海外協力隊員から、「任地が愛せない」という声を聞きます。

私も、少し前まで任地が愛せない、現地の人と馴染めない、こんなはずじゃなかった、、。と思っていました。最近は心が落ち着いてきたのもあるのですが、あることをきっかけにそういう悩みがほとんどなくなったので書こうと思います。

 

私は文化人類学もやっていたし、コミュニティ開発隊員だしという自負というか驕りがあって、お恥ずかしながら自分は比較的異文化には免疫がある方だと思っていました。

でもそんなことはなく、半年近くたつのになかなか負の感情が消えないことに正直驚いていたしどうしていいかわからなかった。

特に最初の4か月は一番大変でした。最近は比較的心も落ち着いてきてそれはよかったのですが、思い返すとやはりとても余裕なかったなあと思います。

ちょうど心が上向きになってきたタイミングでとある文化人類学者に、人類学者はどうしていたのかを聞いてみました。今回はその話をしてみようと思います。

 

 

大学の時に文化人類学(観光人類学)を研究していて、異文化を説いた本はわりかし読んできました。とても興味深いし、今後も研究したい分野ではあります。

人類学者は研究分野を決めると、フィールドワークを行います。それはその民族が生活する現地に入り込み、最低2年間現地で一緒に過ごして行います。その参与観察をとおして、異文化を理解したり、先の研究を批判したり共通項を見つけ出したりします。

私は各民族が大切にしている世界観が興味深かったし、そこに自分との共通点があったりするのを知るのが好きでした。彼らがどのように文化や伝統を継承しているのかも大変興味がありました。

 

私が読む本は、当たり前ですがすべてのフィールドワークが終わり、それを様々な視点から考察しているものが多かったです。そのため、現地にいるときの息遣いであったり悩みだったり、そういうものは見えてきませんでした。

人類学者がそれを語るとき、基本的には学問としての「人類学」の世界でもちろん語られるので、個別具体的な感情は見えてこなかったんです。

 

大学にいるときはそんなこと気にしていなかったけれど、いざ協力隊になって任地に来るとふと思いました。

 

「人類学者は悩みなかったのかな?」と。

 

異文化に入り、2年以上その民族とともに生活をする。協力隊みたいに守られた範囲でもないこともあるし、環境も食生活も伝統も文化も、もちろん全然違う。いくら研究とはいえ、人間関係に悩んだり、しんどい!って思ったりしなかったのだろうか?

 

みんな強く芯をもって研究をやり遂げ、文献に残しているが、そこに現地の人が愛せないというような悩みはもちろんない。それが知りたくなったのでした。

いくら心構えをしていても実際に現地に入り込んだ時の違和感、ギャップ、ショック、そんなものは当たり前にあるだろう。現に私はそれをとても真に受けていました。あんなに心構えしたのに、です。

知り合いの文化人類学者に、人類学者は一般的にその辺どうなのかを聞いてみました。

そしたらこんな回答が返ってきました。

 

多くの人類学者もその辺りの悩みはつきもの。

例えば、近代人類学の祖とも言われるマリノフスキーは、死後公刊された日記に現地の人たちに対する悪態をたくさん書いていた。

バリ島で調査をしたクリフォード・ギアーツという著名な人類学者も、バリ島民との距離感に悩んでいたことを記している。

 

…なるほど、やはり人類学者も悩んでいたのか、、。!

これはちょっと嬉しいニュース。笑

 

プロ中のプロでも悩む。(私は勝手に人類学者を異文化のプロだと考えている)

私たちだってそりゃ悩むに決まっている。

そうか、これは普通のことなのか。と思えた。

 

自分が育ってきた環境を抜け出して、見たことも聞いたこともない町に1人放り込まれる。知っている人なんていない。自分のことを知ってくれている人もいない。

そんな環境で、ストレスがないわけ、、、、ないじゃん!!!!!

 

当たり前と言えば当たり前。でも私は変なプライドが邪魔して、「異文化に馴染めない私」を認めたくなくて、「異文化」の方を心のどこかで否定していたかもしれない。私が悪いんじゃない、この町が変なんだ、って。

違う、そうじゃない。

 

異文化が悪いんではない。自分が100%悪いんでもない。誰も悪くない。

ただそこに、違う文化を持ったものが共存しているという事実があるだけ。

そしてそこからストレスが生まれるのは当然の営みであって、それを否定するのも違う。

人類学者だって悩んでんだから、ストレスがあって当たり前。そしてそのストレスが現地を愛せないという悩みに代わってもなんらおかしくはない。

人類学者も悩んでいたという事実が私をここまで救うとは。笑

 

 

最近は現地での自分の心の持ち様が分かってきてそれはいい傾向でしたが、それに加えてこの事実が私を少し解放してくれるような気がしました。

もし任地での人間関係にお悩みならそれはそれできっと間違っていないです。大丈夫。

1人でも知り合いや友達、信頼できる人ができたらそこから関係を構築していけばいいと思うし、八方美人的に誰にも彼にもニコニコしていなければいけないわけでもないから、そんな焦らずマイペースに過ごせばいいんじゃないかなと今は思います。

 

今後もマイペースに少しずつ関係を構築していこうと思います。